VOL.19 |
アジアアロワナの人工孵化
2001年、始めてアジアアロワナの繁殖に成功致しました。 |
そして時は流れて2011年。初めてのアロワナ繁殖から10年目にあたります。
あの当時、アロワナの繁殖を2回成功させた事で、「アロワナを水槽内でブリーディングする事は特に難しい事ではない」と考えていました。簡単に2回成功させていましたので、そう考えるのも無理はありません・・・。
しかし、僕が得た成功は苦労や失敗の末に得た成功ではなかったのです。当時多くのショップやマニアさんが努力と研究を行っていたアロワナの繁殖をただの運で得てしまったんです。
何事でも物事に挑戦する時は、試行錯誤を重ね、努力、研究、悩みを経て成功へのプロセスを歩みます。当時の僕にはその間の一番大切な部分が抜けていたのだと10年経った今でも強く感じます。
この2回を最後に人工孵化に成功しない事が続きました・・・。「なぜ同じ事が出来ないのか? 何が悪いのか?」
何度も産卵してオスが卵を咥え、人工孵化にチャレンジしました。恐らく2001からの5年で約10回、計300個以上の卵は人工孵化に挑戦したでしょう。そしてその殆どが失敗。何度やっても2001年の様には上手く行きませんでした・・・。
僕の本当の人工孵化への挑戦は、成功した2回からではなくこの連続した失敗から始まったのです。
とにかく様々なファームを見て、話を聞き、アロワナの繁殖に関するありとあらゆる疑問や問題点を埋める作業を行いました。なぜ養殖場は成功するのか?から始めたんです。
しかし、養殖場のオーナーは口をそろえて「1週間以内で開ける事自体無理だ」「水槽は狭すぎる」この2つの言葉ばかりです。広い養殖池にアロワナに適した水質、気候を手にしている彼らがそう言うのも無理はありません。でもこの時でも僕には強い信念がありました。
「水槽でも2回成功しているのだから不可能ではない!」
アロワナは極端に卵の数が少ない魚です。しかも年に1~2回の産卵では、調べるにもチャンスが少なく先に進むのは容易ではありません。とにかく、その産卵のチャンスには考えられる改善策を取りました。同時にどうすれば産卵するのか?を考えるようになりました。
日本国内にこれだけアロワナが居るのに何故「産んだ!」との声が上がらないのか?世界中のマニアを合わせれば凄い数のアロワナの成魚が居るのに、どこの国でも何故水槽では産まないのか?!この「水槽では産まない」と言うのはアジアアロワナの原産国インドネシア、マレーシアでも同じでした・・・。
産卵させるコツが分かってきました。
ここ数年でやっと少しずつですが、ペアリングのコツや親魚の見極め、産卵への誘発のコツが出来る様になってきました。産卵の回数が増えた事で、人工孵化に挑戦できる回数が増えたのです。
実際に面と向かって言われた事はありませんが、「ラフレシアでまた産んだよ!」「でもまた失敗」そう思っている方も多いと思います。逆の立場だったら僕もそう思いますし、そう思われるのが普通でしょう。
正確に記録している訳ではないので推定ですが、10年で約1000個以上の卵は産ませています。勿論成功してちゃんとアロワナになった個体も居ますが、多くは失敗に終わっています。これはアジアアロワナの水槽内繁殖の失敗記録としては世界最多でしょう。ギネスに申請しても行けちゃうんじゃないかと思う位の失敗数ですし、これからも失敗するでしょうからこの記録は当分破られる事はないでしょうね。
でもそれに関してはあまりへこんだりしていません。例えばバイクのレーサーの転倒回数、プロゴルファーのOBの数。4番バッターの空振り数。通常では考えられない位の数の失敗を繰り返していると思いませんか?!
魔の1週間
アロワナの繁殖を目指す方が良く言うこの「魔の1週間」産卵から1週間以内で失敗する例が8割以上を締めている事からそう呼ばれています。アロワナの繁殖の最大のネックはこの1週間を乗りきる事と、なかなか産卵しない事の2点です。
実は僕はオスに7日以上卵を咥えさせた事がありません。今まで全て人工孵化にチャレンジし失敗しているんです。
今でも養殖場のオーナーに「なんで開けるの?」と言われます・・・・。今まで何人に何回言われたか分からない位言われています(笑)。
答えは簡単で、アロワナの繁殖はこの1週間に全てがあるからです。
僕はここに潜んでいる謎を一つ一つクリアしていく事で、本当の繁殖の成功があると信じています。
産卵から1週間の卵の変化は、現地の養殖場のオーナーもあまり詳しく知りません。池があれば知る必要がないとも言えますが、水槽内での繁殖にはこの1週間を調べないとならないと信じています。誰も知らない、調べない。教えてもくれない。こんな1週間なんです。
池では産卵した日時を知る事が出来ません。天候をコントロールする事も、水質、水温を変える事もできません。産卵から何時間で細胞分裂が始まって、何時間でアロワナが形成され、心臓ができ、目が出来て孵化が始まるのか?!産卵時間や水質、温度を知り操れない限り、池では決して調べられないのです。ところが水槽内では産卵前からその全てをコントロールする事が可能なため、産卵時間が分かり、温度水質を管理できれば正確な1週間の卵のデータが分単位でも取れるのです。
数多くの人工孵化のデータの蓄積
冒頭で紹介したプラタパッド29は自分で執筆したにも関わらず、そこに掲載されているデータは僕の一つのバイブルでした。当時何も考えずに記録をメモに書いた落書きが人工孵化を行う際のお手本になりました。何度も何度も読み返し、その後の人工孵化で得たデータとの比較を行いました。
今でも人工孵化でのデータは常にメモ書きで記録していますが、当時のそれとは内容、精度、量など比べられない程になりました。でもこれは全て失敗から得た物が大きかったと感じています。まだまだ分からない事や調べたい事が沢山あるので、今後もアロワナの繁殖を続けていく限り溜め込んで行きたいと思いますし、終わりはないのだろうなぁ~とも感じています。
今まで多くの方がアロワナの繁殖に成功してきました。
とても素晴らしい事ですし、喜ばしい事だと考えています。これからももっともっと繁殖を楽しんで頂きたいですし、良い報告を聞きたいと思っています。
「昔は池があればなぁ~」って良く考えていました。
でも水槽内繁殖には水質や個体管理、産卵の予測とコントロールなど池では出来ない様々な利点も多くあります。確かに生産量では現地にはかないません。でも水槽ならではの有利な部分も多くありますので、その部分を延ばし水槽内ならではアロワナ繁殖を確立してきたいと考えています。
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